Ryoji Ikeda「supercodex live set」@渋谷WWW

 渋谷WWWで行われた、Ryoji Ikedaの “supercodex live set” World Premiereに行ってきた。前売りはソールドアウトしたため、観客席は超満員。真っ暗闇の中、ビートが鳴り、そのビートに合わせてスクリーン上に幾何学模様が変化していく曲からパフォーマンスが始まった。2曲目以降は、スクリーンを左右に分割した映像が映されていく。

 リズムを刻むビートやノイズ、パルス音が組み合わされて曲が作られていくのは過去の作品とも共通している。ただ、今回のパフォーマンスでは、音一つ一つに映像に変化を与えるための意味が持たされている。例えば、画面を横に揺らす意味を持つ音や、音波のようなものを映す音、画面が白く光る音など。これらの様々な音が組み合わされて曲が作られているため、1曲の中で映像が様々な変化を見せていく。観客は音が鳴る度に変わる映像を観て、ある音が映像にどういった変化を与えるものかを学んでいく。曲を聞き、映像を集中して見続けていくことでパターンを見出し、目からも快感を得ることが出来る。

 youtube等で見ることが出来る過去の「Test Pattern」のパフォーマンスと比べると、スクリーンに映し出す映像がより緻密になっていることがわかる。「Test Pattern」のパフォーマンスは、映像として美しい幾何学的パターンを大きく展開させていたが、それと比べると細かく多く変化していくという違いがある。そのために、1曲ごとに前の曲で起きていたパターンを忘れ、新たなパターンを覚えていかなければならない。しかし、ノイズやパルス音は前の曲とそこまで大きく違いがないため(少なくとも僕には違わないように聞こえる)、前の記憶を残したまま新しく始まる曲のパターンを発見していく。そのため、記憶間違いによって、こういった映像になるはずといった予測とは異なった映像が出たりと違和感が生まれていくので、それを消していく作業を頭の中で行っていく。ただ、この作業を行えるのも最初の数曲までで、次々と脳に負荷が与えられていった結果、もうパターンを認識していくことや必要なくなったパターンを忘れていくことが限界になっていく。そこまで辿り着いたあとは、もう無意識で音楽と映像の変化に身を委ねるしかない。

 目の前で起きていることについて何も考えられほどの状態になるというのは、あまり体験できるものではなく独特の気持よさがある。この快感は中々忘れることが出来ないだろう。

マイケル・チミノ「天国の門」デジタル修復版

 一つの作品で会社が潰れるほどの予算を使ってしまうというのは、クリエイターとしては失格なのかもしれない。与えられた予算の中でいいものを作り、元を取っていくことでしか次につながっていかないのだから。しかし、それだけの予算を使ってまで追求したいクオリティというものがあったときに、そこにはある種の「狂気」が宿るのかもしれない。

 音楽でいうと、My Bloody ValentineLovelessがレーベルを潰しかけた作品として有名である。その音はといえば、ギターの音が空間全体を覆い尽くす程の轟音で、それでいて音量をどこまで上げていっても耳が痛くならないというどこまでも空間や音にこだわったものになっていた。このアルバムは「シューゲイザー」と呼ばれる一大ジャンルを作った。そして、「Loveless」のオリジナリティを超えることの出来ないフォロワーたちを今も大量に生み続けているのだ。

 マイケル・チミノ天国の門」もそういった曰くのついている映画である。撮りに撮った結果かかった金額は80億円。今の時代では、この予算の2倍も3倍もかかるような映画はあるが当時では破格だろう。興行収入でかかった費用の一割程しか回収出来ていないことからも、それはわかるだろう。

 My Bloody Valentineが空間を埋め尽くすような音に使っていた予算を、マイケル・チミノ天国の門」ではどこに使っているのか。それはおそらく、人や馬という生き物の多さだろう。最初のハーバード大学の卒業式のシーンからそれは際立っている。卒業式の後の社交ダンスシーンで、ものすごい数の人が音楽に合わせて踊る。主人公以外のエキストラのダンスはキレイに揃っており、美しいシーンになっている。このシーンも後のシーンに繋がる場面ではあるのだが、ここまで大量の人がいなくてもよかったんじゃないの?とは思う。しかし、その大量さがこのシーンに何かを生んでいる。

 また、ラストの移民グループと刑を執行する私軍との衝突シーンの場面も、ものすごい馬の数になっている。私軍を馬に乗った移民グループがグルグルと周りと走りながら取り囲み、戦いは進んでいく。50人近い私軍の周りを取り囲むには、当然その倍近い数の人や馬が必要である。それだけのものが戦う場面は、次々と現れる馬の映像と、馬が走る音、鳴り止まない銃声、殺気に満ちた声とが混ざり合い「狂気」に満ちた場面になっている。

 このラストを堪能するには、家にあるようなサイズのテレビでは明らかに小さすぎるし、ちょっとしたスピーカーもないような環境では、生き物がぶつかり合うことによって生まれた豊かな音はただの塊にしか聞こえないのではないだろうか。
 今回デジタル修復版が公開されたことによって、私たちは大きなスクリーンと素晴らしいサウンドシステムで観るチャンスを得たのだ。このチャンスを無駄にすることはあってはならない。

鳥公園「甘露」

 「やりたいこととかないの?」という声が地下から聞こえ、最初から意表を突いた形で劇が始まる。そして、終わった頃には時間と空間がネジ曲がったような感覚になっていた。この不思議な感覚はどうやって生まれただろうか。


 まず簡単に今回の作品のステージの様子や上演時間などの概要を書いていきたいと思う。会場は三鷹市芸術文化センター星のホール。ホールの名がつくのでさすがに広いのだが、観客席に与えられたスペースはわずかで、スペースの5分の4はステージで構成されている。
 手前から人工芝の道がステージを縦断しており、途中には花が置かれている。また、その周辺は穴があいている。その横には長テーブル、椅子、トイレ、セットの二階には洗濯物が干されている。その少し奥には縦断する黒い道。そしてさらに奥にはベンチが置かれている。広大なスペースを埋めるように縦横全てにものが置かれており、作品を見終わるとようやく何が置かれていたか把握しきることができるほどの量になっている。
 上演時間は約60分。劇中流れていく時間は上演時間の1時間ではなく、もっと長い、数日とか数週間とか、もしかしたら数ヶ月かもしれない、それほどの長い時間が流れている。にも関わらず、暗転することなく一幕で語りきる。
 60分という上演時間にも関わらず、登場する人物はそれなりに多く、関係が複雑だ。登場するのは一組の夫婦(妻・益子と夫・櫟)と、その妻の同級生二人(井尾、笠原)。その同級生のうちの一人(井尾)の友人(大熊)。その友人(大熊)が働いている職場の後輩(佐竹)と社長(菱沼)の計7人。
 その職場の社長(菱沼)は同級生のうちの、もう一人のほう(笠原)の父親で、その笠原は、一組の夫婦の夫(櫟)に対して恋心を抱いている。彼が結婚しているとも知らずに。そして、妻・益子にバレているとも知らずに。


 さて最初に書いた、この作品を観ているとなぜ空間や時間がねじ曲がって感じるのかという疑問に答えないままここまで来てしまった。ここからはこの疑問に向き合っていこうと思う。今作品では7人のいくつもの関係性を60分で描いていくにあたり、音楽で言えばテクノやハウスミュージックで言うところのDJミックスのようなことが行われている。
 例えば、最初の場面では地下から、働く二人の男性、大熊、佐竹のやり取りが聞こえてくる。ただ、そのやり取りの途中から益子と井尾が舞台上に登場し、彼ら二人のやり取りとは別のやり取りを始めていく。大熊、佐竹のやり取りは徐々に声量が落ちていきフェードアウトしていく。こういった2つのやりとりが交差しないパターンもあれば、2つのやり取りが交差す場合もある。菱沼が佐竹と仕事の話をし終えたあとで、本来は全然違う場所にいるはずの同級生の3人の会話に割って入り、娘と話始める場面などがこのパターンにあたる。
 音楽のミックスの場合はスムーズに曲が繋がれていき、それに合わせて踊っていると、気がついたときには最初に聞いていた曲とは違う雰囲気の曲が流れていて、一体何曲ぐらいの曲が繋がれ、どれほどの時間が経ったのかわからなくなることがある。
 それと同じようなことが、この「甘露」という作品では起きている。異なる組み合わせのやり取りが次々と繋がれていく。気がつくと場面が変わっているほどのシームレスな場合もあれば、無理矢理2つの場面が切り替えられる場合など手法は様々だが、連続して流れていくことで時間の感覚がわからなくなり、また広くステージを使う演出も合わさって空間のどこに焦点を合わせていいのかわからなくなっていく。


 今回の演出は、三鷹市芸術文化センター星のホールでしか成立しないものがいくつもある。時間を歪ます演出はこれからも出来るだろうが、(詳しくは書いていないが)空間が歪んでいく演出は今回見なければ今後観ることは難しいだろう。そういった意味でこの期間で観るべき作品だろうと思う。


※「甘露」に関するURLはhttp://mitaka.jpn.org/ticket/1310250/
※11月4日に行われる文学フリマ(@東京流通センター)の「カ-7」ブースにて、同人誌PENETRAを販売します。

Perfume「LEVEL3」

 capsule「FRUITS CLiPPER」から始まった中田ヤスタカのダンス・ミュージックに対するチャレンジの歴史が最高の結果で実を結んだのが、Perfume「LEVEL3」だ。今年、サカナクション「sakanaction」と並び、日本のダンス・ミュージックのアルバムの最高峰をいくアルバムだろう。

 アルバムの構成は前作「JPN」とかなり似たものになっている。オープニングトラックの後で、シングル曲などの既発曲のアルバムミックスが2曲連続で続く。そして、アルバムの中盤にBPMの遅い曲を配置し、アルバムのラスト前にシングルのアルバムミックス曲が来て、そしてアルバムの最後にはラスト曲らしい曲がくる。

 思えば、前作「JPN」もPerfumeというユニットを使ってこれ以上のアルバムを作ることが出来るのか?と思うほど完成度の高いアルバムになっていた。しかし、前前作「トライアングル」にあった、世界最先端のダンス・ミュージックと競い合っていくような曲は少なく、Perfume独自のサウンドとして進化させていったように思う。それと比べると、今作はDavid GuettaやCalvin Harrisなどがシーンを引っ張るEDMのサウンドを意識してエッセンスとして取り入れている。つまり、既に完成形に近づいていた前作のアルバムと同じ構成を使い、世界の最先端のサウンドにチャレンジしている。

 例えば、もはやPefumeの曲である意味があるのか不思議になるほどボーカルが入らない上に、曲の長さも7分を超える、J-Popから遠く離れたM7.Party Makerや、アルバムミックスが行われた中では最も大胆な変更されたM13.Spending all my timeは、そのチャレンジの最も尖った部分だろう。特にSpending all my timeは、曲の頭で使われているシンセの響きを変え、ボーカルではなくベースで引っ張る展開にすることで、EDMの持つ底なしのアゲ感を持たせることに成功している。

 海外に目を向けると、Ellie Goulding「Halcyon Days」というダンス・ミュージック×女性アーティストという似たような作品があるが、こちらはプロデューサーの人選からもわかる通り、良くも悪くも完全にEDMに取り込まれてしまっている。結果的にPerfumeは世界的に見てもかなり独自のポジションに進みつつある。既に今年のカンヌライオンズで行ったパフォーマンスがメディア関係者を中心に世界で話題になっているが、サウンド面でも話題になるのも時間の問題なのではないだろうか。それほどのポテンシャルをこのアルバムを持っている。

※このレビューは、11月4日に行われる文学フリマのカ-7ブースで販売する同人誌PENETRAに収録されます。

マームとジプシー「COCOON」

 今日マチ子が、戦時中の沖縄の女学生について描いた「COCOON」を原作にした作品。原作との比較で言うと、原作では少ししかなかった看護隊に入る前の学校でのエピソードがかなり大きく扱われ、看護隊に入る前、看護隊での活動、看護隊解散後といった3部構成になっている。

 マームとジプシーの特徴は、喪失とリフレインだと言われる。「リフレイン」については観てみれば分かる通り、繰り返しを行う演出手法だ。繰り返しといってもその繰り返し方は多様で、同じ場面を連続して繰り返すこともあれば、既に演じられた場面がその後の場面で再度演じられることもある。このリフレインについては、「COCOON」という原作がある作品でも、過去の作品と変わらず重要な手法として使われている。ただ、マームのリフレインは、今目の前で上映されている作品に留まることなく、過去の作品の場面をもリフレインしていく。

 僕はそもそも演劇を見始めたのも今年になってからで、マーム(もしくは藤田貴大が演出する)作品に関しても3作品しか観ていない。しかし、そんな僕でもこの「COCOON」を観ていて、過去の作品達を想起してしまう。

 例えば、冒頭にサン役の青柳いづみが行う、走っていって止まったところで足を前に出し、地面に触れるか触れないかというところで後ろに下がっていく動き。例えば、木の枠。例えば「わたしってマジでクソだな。」というセリフ。また、役名=俳優の名前をそのまま使うという方式。吉田聡子はどの作品でも「さとこ」だし、李そじんはどの作品でも「そじこ」である。否が応でもその他の作品でのキャラが重なりあっていく。

 今回最も避けなければならなかったことは、「戦争ひどい」や「戦争で死んでしまってかわいそう」という「戦争」という言葉が間に入ることによる「喪失」に関する価値の差が生まれてしまうことだろう。これが生まれてしまうと、じゃあ戦争でない出来事による「喪失」は描く意味があるのかという疑問が、マームとジプシーという劇団が今まで作ってきた作品、そして今後作っていく作品に対して向けられてしまう。

 ここまで挙げた動きやセリフは「COCOON」の中でも最初や最後といった最も重要な位置で登場する。今日マチ子が描いた作品を原作にしても、過去の作品の場面を大事な場面で召喚することで「マームとジプシーの作品」として成り立たせている。その結果、沖縄戦で亡くなっていった女学生についての作品であっても、それら少女の死は特別な死ではなく、誰かを失うということについて、価値はそれぞれ等しいことを伝えている。


今年上半期のマイ・ベスト

■音楽編
非常にベタなランキングです。
が、Kanye Westが入ってないなぁとか、Disclosureがないとかあります。

・3位:Daft Punk「Random Access Memories」

Random Access Memories


・2位:Rhye 「Woman」

Woman


・1位:Justin Timberlake 「20/20 Experience」

20/20 Experience


■映画
なんか今年は不発感が漂っているのですが、どうなんでしょうか。。

・3位:ウェス・アンダーソンムーンライズ・キングダム


・2位:クエンティン・タランティーノ「ジャンゴ」


・1位:レオス・カラックスホーリーモーターズ」


■演劇
今年から見始めたのですが、ハマりかけで月に2〜3本くらい観るようになりました。
再演の作品はいいに決まってるので、おそらく新作というものだけで。
演劇に関しては、マームとジプシーとの出会いがかなり大きいです。

・3位:北九州芸術劇場プロデュース「LAND→SCAPE/海を眺望→街を展望」
http://www.kitakyushu-performingartscenter.or.jp/event/2012/1113landscape.html


・2位:ままごと「朝がある 弾き語りTOUR」
http://www.mamagoto.org/asatour.html


・1位:木下歌舞伎「黒塚」
http://kinoshita-kabuki.org/?paststage=%E6%80%A5%E3%81%AA%E5%9D%82%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B8%E3%82%AA%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9%EF%BC%8F%E6%9C%A8%E3%83%8E%E4%B8%8B%E6%AD%8C%E8%88%9E%E4%BC%8E%E3%80%8E%E9%BB%92#about


下半期も素晴らしい作品に出会えますように。

Vampire Weekend「Modern Vampires of the City」

音楽には国籍がある。特にロック・ミュージックには。多くのバンドの音は、これはアメリカのバンド、これはイギリスのバンド、これはオーストラリア、これはヨーロッパの他の国ぐらいの分類はできる。このことはそれほど難しいことではなく、TSUTAYAから僅かなCDを借りて聞けば、「耳」がインストールされる。

その一方でどの国のバンドかではなく、ある規模の都市で活動しているバンドによる音というものがある。アメリカのバンドなのかヨーロッパのバンドなのか、それすらも判断が難しい、独特のサウンド。東京に住んでいる者からすれば、どこかの国らしさが全面に出ているよりも聴きやすいものかもしれない。

Vampire Weekendは前作までの2作は明らかに後者の都市のサウンドだった。浮遊感のあるシンセサイザーと、多様なリズムを刻むドラムによって(いい意味で)閉塞的でありながら人工的な華やかさに溢れ、街で行われているパーティーのようだった。

そんな2枚のアルバムから3年経って届けられた新しいアルバム「Modern Vampires of the City」はそういった無邪気な時期が過ぎ、成長していった姿が刻み込まれている。ある都市で生まれた記録としてのアルバムではなく、アメリカを代表するロックバンドとしての自覚を持ったアルバムとして。その大きな変化は一曲目、曲が始まればすぐに分かるだろう。「Obvious Bicycle」は聞きながら広大な大地で演奏するバンドの様子を思い浮かべることが出来る、スケールの大きな曲になっている。伸びやかなベース、柔らかなピアノ。

いわゆるスタジアムロック化ではない。だが、音楽の規模が大きくなっているという珍しい進歩を体感できるアルバムになっている。

Modern Vampires of the City
Modern Vampires of the City
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Vampire Weekend
Xl Recordings (2013-05-14)
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