Blur 武道館公演

この2014年に必ず観るべきライブはなにか。3月に来日するJkae Buggやサマーソニックでの来日が決まっているArctic Monkeysなどがおそらくそういった問いの答えになるのだろう。別にThe Rolling Stonesのライブに行ったっていいけど、そのお金でフジロック行ったほうがよくない?とも思うのである。そんな中、11年振りの日本でのライブとなるBlurはどういう立ち位置なのだろうか。

11年前、日本で最後に行ったライブはサマーソニックでのものだった。このライブは今でもはっきりと覚えている。なぜなら僕が高校3年生のときに初めて行った夏フェスがこの年だったからだ。フェスのトリ級のアーティストで生まれて初めて観たのがBlurだった。だが、そのときのがっかり感はすごかった。2003年に出されたアルバム「Think Tnak」はそこまで悪い出来であったとは思わなかった。ただ、グレアムが抜けた3人で演奏されるBlurは、引退目前の枯れ果てたバンドのように感じられた。その中でも、代表曲である「Tender」はかったるいのに長く、バックコーラスばかりが大きな音で聞こえ、とにかく苦痛だった。その翌日、Radioheadの衝撃的なパフォーマンス、その中でもCreepのイントロが演奏された時の会場の耳をつんざくような歓喜の声を体感してしまったことで、相対的にBlurの評価は下がっていき、新しいアルバムを作りながらも完全に終わったバンドであるという認識になっていった。

それから6年が経った2009年、彼らはオリジナルメンバーであるグレアムと共に再結成し、2日間のライブを行った。そのときのライブは両日ともCDで発売されている。再結成ライブ初日のCDを聞いたとき、今度はとにかく驚かされた。長いブランクがあったにも関わらず、完成されたバンドの演奏。4人で鳴らすために作られた音楽が演奏すべき4人によって演奏されている。そんな普通のことが行われているだけで、パフォーマンスの一つ一つに観客が歓喜の声を上げ、代表曲が演奏されるたびに観客が歌い、曲が終わる度にまた大歓声が起きていた。CDで聞いたにも関わらず、高校生のときにライブで観たとき以上の感動があった。

そのCDを聞いてからは再結成後のBlurを日本で観れる機会は来るのだろうかとずっと思っていた。ギャラなどの問題を考えると、おそらく夏フェス以外では難しいと思い、そこから毎年サマーソニックまたはフジロックのトリにBlurがアナウンスされるのを期待した。しかし、夏フェスにBlurが来ることはなかった。その代わり、2013年にTOKYO ROCKSという新しいフェスのトリとして呼ばれることが決まっていた。しかし、そのフェスはちゃんとした理由も発表されないまま中止になり、結局Blurが日本に来ることはなかった。もう来ることはないのではないか。そう思った頃に発表されたのが今回の来日公演なのである。当然、チケットはあっと言う間に売り切れた。決して安くないチケットだったが、それだけみんなが観たいと思っていた。

2014年1月14日。今度こそ中止にならず、武道館でのライブが始まった。ボーカルのデーモンがとにかく元気そうだった。ライブが始まってから観客席に向かってペットボトルの水を何度も何度もかけていた。ドラムから後ろにジャンプしては着地に失敗し、後ろに転びながら演奏したりしていた。グレアムがギターとして入ることで歌に集中出来るせいか、ボーカルとしても乗りに乗っていた。
しかし、僕が最も驚いたのはグレアムのギターであった。あれほど楽しそうに轟音を鳴らすギタリストを観たことがなかった。そして、1曲だけ演奏していたアコースティック・ギターは驚愕の上手さだった。The La'sのリー・メイヴァースに似た演奏で、叩きつけるような弾き方ではないにも関わらず、ピアノのようなリズム感が全面に出た演奏方法だった。あんなギターの演奏方法をリー以外に出来ると知らず、本当にびっくりした。そしてラストのSong2。今までメロディがいい曲というイメージがあったが、この曲の魅力の大半はアウトロの轟音ギターにあることをライブで初めて知った。今まで数え切れないほど聞いてきたにも関わらず。
新しいアルバムが出たわけではないため、代表曲ばかりが演奏されるライブで、聞きたかった曲が殆ど聞くことそれはそれで満足度は高かった。この5年間で作られた数少ない新曲も演奏されたが、今までの代表曲と遜色がなく、作られるかどうかわからないアルバムへの期待が高まった。

結局のところ、初めの問いに示した「2014年」的なものはこのライブには一切なかった。しかし、武道館で行われていたのはくたびれ果てたバンドによる90年代の懐メロ演奏でもなかった。90年代に曲を書きため、2009年からバンド活動を開始し、念願叶ってようやく日本に来日してくれたBlurというバンドがいた。あの日のライブを観て、そんな風に感じたのだった。