水素74% 『荒野の家』

 『荒野の家』は引きこもりの息子を抱えた父と母と、頻繁に実家に逃げてくる娘の4人家族の物語である。
 息子は小学生のときに母との間に起きたとある事件から甘やかされて育った結果、30歳になっても引きこもりである。母は今までの子育てを反省し息子を甘やかすのを止めようと決意するが、その決意はどこか中途半端である。父は引きこもる息子と会話をもう何年もしていないが、やはり子育てには失敗したと思い、何とか息子が良くなってほしいと母とは別の方法を画策する。娘であり、引きこもりの妹は、もっと両親に構ってもらいたいという気持ちから兄の更生の方法を考える。それぞれが引きこもりの息子の行く末を心配しつつ、自らの良かれと思ったことを推し進めていく。だが、自分が最もいいと思ったことを進めることが、家族全体を良い方向に進めていくとは限らない。
 
 別ジャンルで似たタイプの作品でいうと、リドリー・スコット『悪の法則』のような、最初からもう終わってる系の作品である。作品が始まった時にはもう既に結末に向けて転がり始めていて、誰もその転がりを止めることは出来ないし止めようとも思っていない。むしろ、舞台に新しい人物が登場していく度に結末への速度が加速していく。終わってみると、どれかが間違っていたからこういった結末になったのではなく、彼らが行った選択や会話のほとんど全てが間違っていたとしか考えられない。ただ、作品が始まった瞬間から全て「正しい」行動を行っていたからといって、違った結末が得られたとも思えない。そもそも、「正しい」行動とはなんだ?
 
 『悪の法則』は余程のことがない限り自分たちと関係がある世界とは思えないが、この『荒野の家』はいわゆるホームドラマで観客の生活と地続きの世界の話である。その一方で、誰もが自分たちは絶対こんなふうにはならないと高を括っている。だから、観客は会話の一つ一つや話の展開に「ヒドい。。」と思いながらも、怒号が飛び交う家族のやり取りでさえも思わず笑ってしまう。なんというか、非常に嫌な感じを味わう(褒めてます!!)作品だった。