ダーティーサイエンス
僕にとって、2011年救いになった2曲ある。S.l.a.c.k., TAMU, PUNPEE, 仙人掌による「But This is Way」とRHYMESTERの「そしてまた歌い出す」だ。前者は震災があったあとすぐに発表された曲で、あの日から数日経ったときの気持ちをすっとすくい上げるようなリリックに完全にやられてしまった。後者は震災前に発表された曲だが、震災後の何でも不謹慎と言う人たちがいたときに感じた気持ちを歌いあげてくれた。
2011年、RHYMESTERは(運を)もっていることと、もっていないことがあった。
もっていたのは、震災があった瞬間に震災後のあの雰囲気のことを歌ったとしか思えない「そしてまた歌い出す」という新曲があったこと。震災直後のタマフルでこの曲が流れたときには涙が溢れてしまった。もっていなかったのは、彼らのアルバム「POP LIFE」。3月11日を境に彼らの想定していた2011年と現実の2011年は全く違うものになってしまった。
そんな彼らが震災後、満を持してフルアルバム「ダーティーサイエンス」をリリースする。
このアルバムで素晴らしいのは頭3曲と後ろ2曲だと思う。この時代にあえてアルバムを聞く意味は、曲と曲とのつながり、連続して聞くことによって価値が増すことがあるからだろう。特に「The Choice Is Yours」はシングルのときにもよかったが、その当時はアルバムのラストを飾る曲とは思わなかった。しかし、「It's a New Day」の後に聞くと、もうこの曲でアルバムを終わらせるしかないと、考えが180度変わってしまうほどの繋ぎの良さなのだ。アルバム最後のこの二曲を通して聞くためだけに、何度もアルバムを聞いている。
いきなり買えないという方は、CD屋に行き、試聴機で11曲目から再生し10分間耳を傾けてほしい。
ムーンライズ・キングダム
「僕は、映画を新しいもの、今までと違うものに見せること、そして、どうやってうまくストーリーを伝えたらいいのかに全エネルギーを注いでる。それでも、舞台をニューヨークやイタリア、船上やインドの列車にしても、人からは“この映画はあなたのほかの作品とよく似ていますね”と言われてしまうんだ。つまり、物事に対する僕のおかしな見方が出るからだと思うよ」注1
「ダージリン急行」公開時のウェス・アンダーソン監督へのインタビュー。「ムーンライズ・キングダム」も今までのウェスの映画とは異なるが、それでも間違いなく彼の作品としかいいようがない作品になっている。
今作の舞台は70年代のアメリカのとある小さな島。そこで、恋に落ちた少年と少女が駆け落ちする。彼らの周囲の小さな世界ではマイノリティで嫌われ者同士。その二人だからこそ共感し、お互いを認め合うことが出来る。彼らが惹かれ合う理由は、大人の僕達でも納得出来る。それが少年少女のものであっても。だが、彼らは少年少女であるため、親や警察に追いかけられてしまう。
12歳の少年と少女の、島での駆け落ちというストーリーだが、観終わるといかにもウェスらしいと感じる。「ロイヤル・テネンバウムズ」の天才一家、「ダージリン急行」での車内での兄弟などと同じく、限定された空間の中で、自分にとって必要な人達とのやり取りを通じて、それぞれのキャラクターが何かを取戻していく。そのテーマは羽海野チカの「3月のライオン」にも似ている。
扱っているテーマ以外にもウェスならではと言える場面は多い。今作では執拗なまでに、映像の中心に部屋や、家などの中心を置く構図が登場する。そういった左右対称の背景が生み出す、スタイリッシュな映像も彼ならではだろう。また、ボーイスカウトユニフォームや隊長のバッチのかわいらしさ、フランス映画っぽいスージーの服など小物の力の入れ具合も健在だ。これだけ細部にまでこだわり抜いた映画はなかなか出ないだろう。
今年のベスト・アルバム ベスト5(海外編)
昨日に引き続き、海外のベストアルバムについて。
特に上位三枚は相当な回数聞きました。
5.Godspeed You! Black Emperor / ALLELUJAH! DON’T BEND! ASCEND!
Allelujah! Don't Bend! Ascend!
- アーティスト: Godspeed You! Black Emperor
- 出版社/メーカー: constellation
- 発売日: 2012/10/16
- メディア: CD
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復活したGY!BEの新作。そして相変わらずのクオリティ。
相変わらず大仰なのだけれど、それもライブを見てあの編成ならそういう曲にもなるわなと納得。
4.Crystal Castles / Crystal Castles (?)
- アーティスト: Crystal Castles
- 出版社/メーカー: Casablanca
- 発売日: 2012/11/08
- メディア: CD
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エレクトロかつ、パンクなユニットの3rdアルバム。
ディストーションのかかったシンセの音、叫ぶ女性ボーカル、
ギターを弾いてパンク・バンドってのは昔からあるけれど、2000年代のパンク・バンドとして、
超かっこいいと思うのです。
3.Beach House / Bloom
- アーティスト: Beach House
- 出版社/メーカー: Sub Pop
- 発売日: 2012/05/15
- メディア: CD
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ジャケからして最高。今のところのチルウェイヴの最高傑作ではないかなと思います。
前作の「Teen Dream」はチルウェイヴというジャンルが盛り上がったときの空気感を掴んだ傑作だと思いますが、
さらにブラッシュアップしてきたように思います。
2.Chromatics / Kill For Love
- アーティスト: Chromatics
- 出版社/メーカー: Imports
- 発売日: 2012/06/05
- メディア: CD
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映画「ドライヴ」にも曲が使われたChromaticsですが、
17曲90分超の大作を作り上げてきました。
Neil Youngカバーの「Into The Black」が美しすぎるんですよね。。
1.The xx / Coexist
- アーティスト: The xx,ザ・エックス・エックス
- 出版社/メーカー: Young Turks
- 発売日: 2012/09/10
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The xxは別に前作そこまで好きではないというか、普通だなぁと思ったんですが
今作は音が鳴っているのに、聞いているとどんどん静かになっていく気がするんですよね。
そんな音楽は初めて聞いたなぁと思ってぶっ飛ばされました。
ということで上位三枚はすごくメロウというかミドルテンポのロマンチックなアルバムばかりになりました。
まあ、年を取ったってことなんですかねぇ。。
今年のベスト・アルバム ベスト5(国内編)
何枚ぐらい聞いたかはよくわからないけれど、
今年は全体的に海外のアルバムのほうが目新しいとか印象に残るアルバムが多かったし、
個人的にも回数としてよく聞いたなぁと思います。
ただ、この5枚に関しては面白いアルバムだったなと思います。
5.OMSB / Mr. "All Bad" Jordan
- アーティスト: OMSB
- 出版社/メーカー: SUMMIT
- 発売日: 2012/10/26
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SIMI LABのラッパー、OMSBのソロデビューアルバム。
QN脱退後に初めてSIMI LABのライブを見たのだけれど、
OMSBの凄まじい存在感にぶっ飛ばされました。
日本語でラップしてるけど、日本人が歌っているとは思えないというか。
(これはいいことなのか、悪いことなのか、OMSB自身が誇りに思うことなのか、傷つくことなのかわからないですが)
4.中村一義 / 対音楽
- アーティスト: 中村一義
- 出版社/メーカー: FIVE D plus
- 発売日: 2012/07/11
- メディア: CD
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ベートーヴェンとロックのマッシュアップというか、インスパイアされて作られた音楽。
ライブで聞いた「歓喜の歌」はたまらないものがありました。
- アーティスト: きゃりーぱみゅぱみゅ
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
- 発売日: 2012/05/23
- メディア: CD
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全部聞いているわけではないですが、おそらく中田ヤスタカがプロデュースした作品の中で、
最高傑作ではないかなーと思います。
エレクトロ・サウンドと、capsule初期にあったようなポップさが混ざった、
すごいアルバムだなぁと思います。
きゃりーぱみゅぱみゅかーと思って敬遠している方には是非聞いてほしいです。
2.Zazen Boys / すとーりーず
- アーティスト: Zazen Boys
- 出版社/メーカー: Matsuri Studio
- 発売日: 2012/09/05
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「Zazen Boys 4」もびっくりするほどの傑作でしたが「すとーりーず」もすごい。
Battlesを思わせる音に、リズム感のある日本語が鳴り、
今まで聞いたことのない最先端の音楽だなと思いました。
1.Moe and ghosts / 幽霊たち
- アーティスト: Moe and ghosts
- 出版社/メーカー: Headz
- 発売日: 2012/08/15
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彼女らについては、ギブスのメンバーで出した「ペネトラ」という冊子で
たくさん書いたのでそちらをご覧いただきたいのですが(宣伝)。
(http://www.faderbyheadz.com/)
女性ラッパー、ラップグループという観点で見た時に、
世界的に見て存在しなかった領域を突破したと思います。
音もバイレファンキっぽい感じでよいです。
アルゴ
「アルゴ」は1979年にイラン革命の最中に起きた「アメリカ大使館人質事件」の発生と、人質になる前に大使館から脱出した6人のアメリカ人がイランから脱出するまでを描いた映画だ。
この脱出に関する話は、実話が元になっていることが映画が開始してすぐに観客に伝えられる。
イラン革命にアメリカが関与したことで、イラン国内のアメリカ人への反感や暴行は最高潮に達していた。その状況下で、人質になることから逃れた6人を救うために、CIAが考えた作戦がだされた作戦は砂漠の国をモチーフにしたSF映画「アルゴ」を制作するというものだった。
この「アルゴ」を監督しているベン・アフレックは今作でも主役兼監督を務めている。「今作でも」というのは、彼が監督した前作「ザ・タウン」でも主役と監督を務めているからだ。
前作「ザ・タウン」ではベン・アフレックとジェレミー・レナーの、俳優としての魅力を引き出すことによって話を引っ張っていた。それは各俳優の「見た目」の魅力というべきもので、ベン・アフレックの優等生感やジェレミー・レナーのどこか全面的には信用の出来ない感じを活かしたキャスティングによって、観客は違和感なくストーリーを受け入れることが出来た。
しかし、今回の「アルゴ」では、ベン・アフレックが自分の俳優としての魅力を捨てた。彼が演じるのは、6人を救出する作戦の指揮を取るCIA職員。長髪でモミアゲからアゴまで髭の生やした、優等生にはほど遠い姿だ。自らの俳優としての魅力を限りなく押し殺し、脱出劇に注力した結果、「アルゴ」は俳優 ベン・アフレックよりもドキドキハラハラするストーリー展開を強く印象づける作品に仕上がっている。
ベン・アフレックは前作の監督と主役を兼任するスタイルから、一部では「クリント・イーストウッドの後継者」と評されていた。そして、今回の「アルゴ」によってその評判は更に多くの共感を得ることだろう。
007 スカイフォール
ジェームズ・ボンドをダニエル・クレイグが演じるようになってからの007シリーズは、今007をやるならどんなボンドがカッコいいかということだけを提示してきた。その結果、英国の男性らしいスマートな仕草と説得力のある肉体から繰り出されるアクションシーンを併せ持つシリーズとして復活した。
その一方、「カジノ・ロワイヤル」や「慰めの報酬」では、多くの人が疑問に思っているあの疑問を避けてきた、それは「スパイ活動の必然性がない今、なぜ007を作り続ける必要があるのか」だ。前二作ではボンドの再生と復讐をテーマにしていた。避け続けてきたこの疑問に向き合ったのが「007 スカイフォール」だ。
今回の007を監督するのはサム・メンデス。「アメリカン・ビューティー」や「レボリューショナリー・ロード」などの監督として知られ、人間ドラマや映像の美しさが特徴の作品が多い。その監督が「アクションを撮れるのか?」が、ファンの間では心配の一つだったが、見終わってみればその心配は杞憂だった。
今作は予告編がとてもスタイリッシュだったが、それはアクションシーンや決めのシーンがとにかく絵として美しいことから来ているのだろう。予告編でも登場する、ショベルカーから列車に飛び乗るシーンや迫り来る地下鉄をバックに壁に向かって銃を撃つシーン。カッコいいと思わせるのには十分だ。
中盤までは笑ってしまうほどのアクションシーンの乱れ打ちで十分に楽しむことが出来るが、後半に進むにつれてなぜ今007なのかというメインテーマの解決に進んでいく。華やかなロンドンから殺風景で暗いスコットランドに移り、前半とのあまりの落差に「重たさ」を感じる。重厚ということではなく、「あなたの気持ちはちょっと重すぎる」ほうの「重たさ」。この「重たさ」には好みが別れるだろう。しかし、それは好みなのでどちらの声に惑わされず劇場に行き、今度こそ完全復活を果たした007を目撃してほしい。