ムーンライズ・キングダム

「僕は、映画を新しいもの、今までと違うものに見せること、そして、どうやってうまくストーリーを伝えたらいいのかに全エネルギーを注いでる。それでも、舞台をニューヨークやイタリア、船上やインドの列車にしても、人からは“この映画はあなたのほかの作品とよく似ていますね”と言われてしまうんだ。つまり、物事に対する僕のおかしな見方が出るからだと思うよ」注1

 「ダージリン急行」公開時のウェス・アンダーソン監督へのインタビュー。「ムーンライズ・キングダム」も今までのウェスの映画とは異なるが、それでも間違いなく彼の作品としかいいようがない作品になっている。

 今作の舞台は70年代のアメリカのとある小さな島。そこで、恋に落ちた少年と少女が駆け落ちする。彼らの周囲の小さな世界ではマイノリティで嫌われ者同士。その二人だからこそ共感し、お互いを認め合うことが出来る。彼らが惹かれ合う理由は、大人の僕達でも納得出来る。それが少年少女のものであっても。だが、彼らは少年少女であるため、親や警察に追いかけられてしまう。

 12歳の少年と少女の、島での駆け落ちというストーリーだが、観終わるといかにもウェスらしいと感じる。「ロイヤル・テネンバウムズ」の天才一家、「ダージリン急行」での車内での兄弟などと同じく、限定された空間の中で、自分にとって必要な人達とのやり取りを通じて、それぞれのキャラクターが何かを取戻していく。そのテーマは羽海野チカの「3月のライオン」にも似ている。

 扱っているテーマ以外にもウェスならではと言える場面は多い。今作では執拗なまでに、映像の中心に部屋や、家などの中心を置く構図が登場する。そういった左右対称の背景が生み出す、スタイリッシュな映像も彼ならではだろう。また、ボーイスカウトユニフォームや隊長のバッチのかわいらしさ、フランス映画っぽいスージーの服など小物の力の入れ具合も健在だ。これだけ細部にまでこだわり抜いた映画はなかなか出ないだろう。

注1:http://eiga.com/movie/53121/interview/