007 スカイフォール

 ジェームズ・ボンドダニエル・クレイグが演じるようになってからの007シリーズは、今007をやるならどんなボンドがカッコいいかということだけを提示してきた。その結果、英国の男性らしいスマートな仕草と説得力のある肉体から繰り出されるアクションシーンを併せ持つシリーズとして復活した。
 その一方、「カジノ・ロワイヤル」や「慰めの報酬」では、多くの人が疑問に思っているあの疑問を避けてきた、それは「スパイ活動の必然性がない今、なぜ007を作り続ける必要があるのか」だ。前二作ではボンドの再生と復讐をテーマにしていた。避け続けてきたこの疑問に向き合ったのが「007 スカイフォール」だ。

 今回の007を監督するのはサム・メンデス。「アメリカン・ビューティー」や「レボリューショナリー・ロード」などの監督として知られ、人間ドラマや映像の美しさが特徴の作品が多い。その監督が「アクションを撮れるのか?」が、ファンの間では心配の一つだったが、見終わってみればその心配は杞憂だった。
 今作は予告編がとてもスタイリッシュだったが、それはアクションシーンや決めのシーンがとにかく絵として美しいことから来ているのだろう。予告編でも登場する、ショベルカーから列車に飛び乗るシーンや迫り来る地下鉄をバックに壁に向かって銃を撃つシーン。カッコいいと思わせるのには十分だ。


 中盤までは笑ってしまうほどのアクションシーンの乱れ打ちで十分に楽しむことが出来るが、後半に進むにつれてなぜ今007なのかというメインテーマの解決に進んでいく。華やかなロンドンから殺風景で暗いスコットランドに移り、前半とのあまりの落差に「重たさ」を感じる。重厚ということではなく、「あなたの気持ちはちょっと重すぎる」ほうの「重たさ」。この「重たさ」には好みが別れるだろう。しかし、それは好みなのでどちらの声に惑わされず劇場に行き、今度こそ完全復活を果たした007を目撃してほしい。