Theater ZOU-NO-HANA「象はすべてを忘れない」

 今はすっかりあの場所に馴染んだように見える赤レンガ倉庫だけど、横浜で生まれ育ってきた身からすればすごく違和感が残っている。中に入っているお店も魅力的ではないし、イマイチ何のためにあるのかよくわかっていない。おそらく、赤レンガがないと横浜からみなとみらいまで行った人たちが、そこからもう一つの観光地である中華街まで行ってくれないのだろう。なぜなら、道すがら何もないからだ。本当に何もない。あるとすれば海があるくらい。だから、横浜の観光地をパワーアップする上で、馬車道まで導線を作れるかが大きなポイントだったのだろう。あの辺り一帯はみなとみらいから山下公園、中華街へと人を流していく道にぽっかりと空いたスポットだったのである。

 そういうことで、みなとみらい側から見て、赤レンガ倉庫の先にある象の鼻テラスというのは唐突生まれたイメージがある。すごく不思議な場所で、誰が見ても何かスペースはあるが、それが「象の鼻テラス」という名前であることも知らないし、名前を聞いても「あそこ、そういう名前なんだー。へぇー。」といった感じ。余程の近隣の住民でない以外、言われてもそこねとはならない。そもそも、「象の鼻テラス」ってどういう由来なんだ??

 ままごとの柴幸男が演出をしている「Theater ZOU-NO-HANA 象はすべてを忘れない 」はそういった場所で行われている。12時半から17時ごろまで、いくつかの出し物を時間ごとに区切って行っている。下の写真は今日のタイムテーブルで、うたや、スイッチを押すことで始まる演劇、カフェでオーダーが入ると行われるダンスなど様々な種類のものがある。

 小さい子がスイッチを連打してケラケラケラケラ笑っていたり、(いい意味で)本当にしょうもない作品を観て大人も自然と笑みがこぼれたりする。また、甘酸っぱいオーダーダンスにおばあちゃんがちょっとドキッとしたり、大人も子どもも激ウマな紙芝居を夢中で聞いたりする。こういった一つ一つが、さて赤レンガも観終わったしもう少し先に行ってみようかとたまたま通りすがった人たちに対して、ここを通ってよかったと心から思えるであろう体験を提供できている。その関係性は観ていてとても幸せなことで、感動的でもある。今年の夏に上演された、ままごと「日本の大人」は、劇場の中でこういった関係性を結ぼうとチャレンジしていた作品だったのではないかと、この「象はすべてを忘れない」を観て思った。この素晴らしい体験が出来るのは明日まで。
http://www.zounohana.com/schedule/detail.php?article_id=215