雑誌・新聞はどうやってマネタイズしていくのか。

雑誌、新聞が今後どうやって生き残ってくのか?
というのは立場が変わっても引き続き興味のあるテーマだったりします。
今年は特に、旧メディア(というか、マードック)対グーグルの争いが激しかったなぁと思うところでした。
techcrunchのニュースでもgoogleニュースとニュースサイトの引用、リンクの話が頻繁に上がっていました。


対立の構造はものすごく単純で、
メディア側の言い分としては「俺らは汗水垂らしてコンテンツを作ってるのにタダ乗りすんじゃねぇよ!!」で
グーグルの言い分としては「お前ら、グーグルニュースからどれぐらいアクセスあるかわかってんの?読者増えてるんだからいいじゃん。」で
コンテンツは使っているけれどその分アクセス数という形で利益を返しているというグーグルの言い分を読むと
お互いが違う経済の認識で話合っているなぁと思ったりします。

ウェブは主にふたつの非貨幣単位で構成されている。注目(トラフィック)と評判(リンク)だ。両方とも、無料のコンテンツとサービスにおいてとても重要なものだ。そして、グーグルのバランスシートを見れば一目瞭然なように、このふたつの貨幣のどちらかでも金銭にかえるのはとても簡単なのだ。
クリス・アンダーソン、「フリー」、p296

ウェブで情報を公開するのならば、ウェブなりのルールがあるわけでそれに沿って戦わないと難しいよなぁと思うわけです。
このあたりの話について、先日のSearch Engine Strategies chicago2009でも話題になったようで、

Jeff氏はEric氏の発言に賛成であり、メディア企業を巡るインターネット上の経済は変化しているとし、それをLink Economyという概念で紹介した。Link Economyは次のような特徴を持つ。

1. 発見されるには、検索されうる状態でなければならない
2. 特化していることが求められる
3. 正確さであることが求められる
4. リンクを受けた側がトラフィックのマネタイズ手段を考えなければならない
http://markezine.jp/article/detail/9104

結局、旧メディアは「トラフィックのマネタイズの手段」が見つからずに困っているのかなぁという感じです。



広告収入という面に目を向けると、
日本の場合、電通の売上で見ると新聞が前年度比約25%減、雑誌が約30%減とものすごい減り様で
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2009/pdf/2009077-1110.pdf
雑誌の実売の部数が少ないところはマジでヤバいのではないかと不安になります。
オンライン版の広告でこの減少分が回収できるわけもなく(単価が違いすぎますので)
どうやって穴埋めするのよという話になるような気がします。
ただ、日本の場合アメリカと比べるとオンラインへの踏み切りが遅かった分、
大きな痛手を負わずに済んでいますが遅れた分、約2年後には大変なことになるように思います。


じゃあ、実際にどんなマネタイズにチャレンジしているのよという話が
ここ数日でニュースがたくさん出てきていたのでまとめたいと思います。
・ロイター・メディア社長曰く、「我々はコンテンツだけでなくサービスを創造している」
http://blogs.itmedia.co.jp/akihito/2009/12/post-3d02-2.html

彼によれば、財務・金融系のニュースは、発表されてからごく短い間しか最大の価値を有さない。どのくらいの長さなのかと尋ねたところ、「数ミリ秒」というのが彼の答えだった。数ミリ秒。それが、コンピューターを使うトレーダーたちがニュースを利用できる長さなのだ。数ミリ秒後には、そのニュースはマーケットに知られてしまい、コモディティ化し、独自性とタイムリー性という価値を失ってしまうのである。

情報が武器になる金融の世界では、数ミリ秒を争うように情報を摂取しているわけで
グーグルのクローラーがニュースをせっせと集めているのを待つ余裕はないのかもしれません。
そうすると、直接ロイターのニュースをチェックし続ける必要があるわけでこれは「特化している」ことによる、
リンクエコノミーの例外なのかもしれません。


・新聞サイトの有料化で先行したNewsday,ユニークビジター数が21%減る
http://zen.seesaa.net/article/135497608.html
一番わかりやすく、思いつきやすい方法としては、サイトを有料化する方法があるとは思いますが
media pubさんによればニューヨークの新聞Newsdayでは有料化に踏み切った一カ月で
UUが21%も減ってしまったとのこと。
有料ユーザーだけで成り立つような金額であればいいけれども、週5ドルという金額らしい。
うーん、厳しそう。


・手作りコンテンツの終焉―否応なくジャンクフード・コンテンツの時代が来る
http://jp.techcrunch.com/archives/20091213the-end-of-hand-crafted-content/
もうひとつが、それだったらコンテンツを大量に作ってしまえばいいじゃんというモデル。
これはこれですごい戦略だと思いますが。techcrunchでは2社の紹介が。

たとえば、一つの端にはAOLのトヨタ自動車方式の戦略がある。AOLはオールドメディアで首になったライターをかき集めて何千というニッチなコンテンツのラインアップを作り上げている。その結果、質として最低の記事のリードが膨大なトラフィックを呼び込むAOLのトップページに掲載されることになる。たとえばこの記事などお粗末極まりないものだ。AOL自身のブログの一つがAOLの独立と上場をけなし、意味の分からない不満を延々述べたた後、ひどい事実誤認を披露している(AOLは赤字を出している)。旧メディアから真っ先にクビになり、自分自身のブランドを立ち上げるガッツもないような三流ジャーナリストを大量に雇い入れ、ろくに監督もせずに勝手にやらせておけば、その結果は見えている。安っぽい屑のような記事の山がAOLの膨大なユーザーの前に運ばれてくるのだ。

そしてもう一方の端にはWiredが使い捨ての即席ハウツービデオで大儲けを目指すDemand Mediaという記事でレポートしているようなビジネスモデルがある。Demand Mediaは1本20ドルかそこらの最低の下請け賃金で毎日なんと4000本ものハウツービデオをアップロードし続けているのだ。その目的はただ一つ―検索エンジンの上位に掲示されることだ。検索エンジンにヒットしそうなテーマについてのビデオをひたすら大急ぎでひたすら最低の値段で作り続ける。そしてトラフィックで広告収入を稼ぐ。要するにSEO検索エンジン最適化)ビジネスの極端な例だが、これが嘘のように儲かっているらしい。

テッククランチのまとめでは、「ジャンクフード・コンテンツの時代」となっているけど、
いいものを書いても質の悪い大量のコンテンツによって見つからなくなってしまう時代が来るかもとのこと。
「発見されなければ価値がない」わけでこの状況はちょっと歓迎できるものではないかも。。


ロッキング・オンによる新フェスティヴァルの開催日程と会場があきらかに! 5月15日(土)、16日(日)に富士スピードウェイにて実施
http://www.bounce.com/news/daily.php/21317
実は今日書きたかったのはこれが一番で、出版社からイベント屋への転向を図るロッキング・オンのマネタイズ手法。
ロッキング・オンは音楽関係の雑誌を主に出版している日本の出版社で
ここまで夏と冬の年二回、日本人アーティストをたくさん集めた音楽フェスティバルを開催しています。
年二回でもお腹いっぱいであるのに、さらに5月に2日間もフェスをやるということはビジネスモデルの変換かなぁと思うのです。
つまり、雑誌は自分たちの開催する音楽フェスティバルの宣伝媒体もしくは、彼らがよく言うスターを生み出すための装置として機能して
フェスのチケットをきっちり売り切ることで収益を出すようなモデルに変わろうとしているのではないかと思うのです。


とはいえ、毎回発売日に完売するロッキングオン主催の音楽フェスも
この冬にも行われる「カウントダウンジャパン09/10」で売り切れを出せなかった日程が出るなど(すぐに完売するでしょうが)
少しずつ雲行きが怪しくなってきている気もしなくもないです。
マンネリ化を防ぐには新しいスターアーティストを「生み出す」必要があるわけで
その辺りのジレンマとどう戦っていくのかが気になるところです。


というわけで、各社様々なマネタイズの手法を考えているわけでそれがどのような結果になるのか
注意深く見ていかないといけないなと思います。