「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」展

現在、横浜美術館で行われている、奈良美智さんの「君や 僕に ちょっと似ている」展についてのレビューです。

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「かわいい!!」
ある土曜日の昼過ぎに観賞した際、この言葉が私の耳に一番多く入ってきた。そして、その言葉の前に付くのは「やっぱり」という言葉だった。
「やっぱりかわいい!!」
この言葉がどの世代のどの性別の観賞者からも出るくらい、奈良美智の作品は世の中に浸透していて、観客の多くもいつも通りの「かわいい」作品を見に来ていた。


「君や僕にちょっと似ている」というタイトルのこの展示は、2011年以降に作成された作品が中心となっている。
前半はブロンズで作られた立体の作品。中盤はダンボールやタイル、引き出しといったものの上に描かれた作品。最後にキャンバスに描かれた大型の作品が展示されるという構成になっている。


2011年以降の作品ということは、当然あの震災以降に作成された作品が数多く占めているはずである。
震災後に何を作るか、恐らく考えに考えそれでも描くと決めたものが今回の展示だろう。
壊れにくいブロンズの作品であっても、壊れやすいダンボールや麻布の作品であっても描かれるテーマ、モチーフはとにかく一貫している。
日本のアーティストで言えば、村上隆が震災後に「五百羅漢図」を作成したことと比べるとその違いは歴然としている。「五百羅漢図」は震災がなければ恐らく描かれることがなかったであろう作品だからだ。


かつて、奈良は自分の作品がイラストレーションとどう違うのかを問われた際に、「僕は自分が好きなモノしか描かない」と答えたそうだが、今回の展示からは、その意志をさらに強く感じることが出来る。そして、そこから一歩進み、作品によって自分と世界とを繋ぐという意志も。
この展示で示されているのは、観客の期待に応えるといったヌルい態度ではなく、2012年のこのタイミング、そして今後も好きなモノを作品として描き続け、作品を歴史にを残していくという奈良美智の覚悟だ。