伊坂幸太郎「モダンタイムス」

発売日直後に買ったけれど余りの厚さに引いていたのですが、
小説ももうちょっと読んでいかないとなぁと思いようやく読み始める。
モダンタイムス (Morning NOVELS)


伊坂幸太郎いわく、

この二つの作品は、生真面目な兄と奔放な弟とでも言うような、二卵性の双生児に似ています。「ゴールデンスランバー」にあったものが「モダンタイムス」にはなく、「ゴールデンスランバー」になかったものが「モダンタイムス」にはあると、そう感じています。
モダンタイムスあとがきより

ゴールデンスランバー

であるし、そもそも「魔王」という作品の続編にあたる作品になっているという
なかなか不思議な背景のある小説になっている。
魔王 (講談社文庫)


モダンタイムスを読み終えて、こうやって文章を書いていくと、
ゴールデンスランバーって実はめちゃくちゃな小説じゃんと思ったわけです。
モダンタイムスのほうが終わりとしてはまだ納得出来るなぁと。


両方とも監視社会における小さなコミュニティのメンバーに起きた事件についての小説なんだけれども
ゴールデンスランバーは主人公とその仲間たちが圧倒的な暴力に理由なく巻き込まれた中で、
自分なりのハッピーエンドを目指していき、主人公とその元彼女は生き残る。
しかし、プロットを全て順序よく並べなおして時間順のストーリーにしてみると、
主人公以外の登場人物は主人公が助かって、あとの全員はシステムによって殺されている。
その瞬間としては確かにハッピーだし、プロットとしてはハッピーエンドであるように語られている。
だから、自分も何も考えずに読んでいたときはなんて感動的な話!と思っていたのです。
リテラシーや批判力がなくてすみません。)


それと比較すると、モダンタイムスは自らが圧倒的な暴力に飛び込んでいって、
結果的に自分たちがちょっとだけの満足を得られるような結果を達成して、
周りの人間たちは痛めつけられはするものの全員生き残っている。


もちろん、読み終わった後の達成感としては
ゴールデンスランバーはシステムに仲間と協力して打ち勝った小説で
モダンタイムスはシステムに仲間と協力したけど何も出来ず、システムから外れて幸せを築く小説
のように感じる。、
ゴールデンスランバーはストーリーの時間軸の入れ替えによって、
結論をもやもやにすることで突っ走ることに成功した小説のように感じる。


なので、パッと読む限りは
泣きの要素や文章としての面白さがあるゴールデンスランバーのほうがたぶん一般受けはいいと思う。
ただ、自分が同じ状況に置かれたときにどっちがいいか選べといわれれば、
圧倒的にモダンタイムスの結論のほうだと思う。
もちろん桜井ゆかりはいったいどうなったんだ問題とか、
井坂幸太郎の遺書はいったいなんだったんだ問題とか、
最後の数ページでどたばたと過ぎていくあたりに不満を覚える部分もあるのだろうけれども、
本当は出てくる全ての伏線が最後の結論に回収されるほうが胡散臭いと思う。
そんなこと現実にはないじゃん。だからこれでいいんだと思う。
(それ言ったら、このストーリー自体成立しないって話になると思うけれども)


この小説を読んだことで、
時間の流れを何度も移動したり、主人公の視点を変更したりする文章の書き方を除いたときの
伊坂幸太郎の小説の力量みたいなものがすごくくっきり見えてしまったように感じた。
文章の圧倒的な読みやすさには改めてびっくりするけれども、
どちらの小説にも出てくる強大なシステムに関する考えの深さが
読んでいても滲み出てこない感じが重たい小説に向かないのだろうなぁと思う。


だからこそ、アヒルと鴨のコインロッカーみたいな小説がよいわけだし、
これからもそういった小説をたくさん出せばいいのだろうなと思う。

モダンタイムス (Morning NOVELS)
伊坂 幸太郎
講談社
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