浜井浩一 芹沢一也「犯罪不安社会 誰もが「不審者」?」

α-Synodosというメールマガジンを半年購読していたのですが、
そういえば発行人の芹沢一也の著書を読んだことがないなぁと思い購入。
最近はフーコーの研究をよくやっているのでしょうか??

共著ですがamazonの評価もものすごく高いのにびっくり。


この本自体は犯罪に対する不安を書いているはずですが、
メディアの勉強をしている自分とっては、
マスメディアの報道姿勢について書かれた本にしか見えない。
それだけ犯罪というのは報道の仕方によって印象が変わるということでしょう。


また、この本の2章「凶悪犯罪の語られ方」はまさに今読むべき内容になっている。
そう、それは今年秋葉原事件という悲しい事件が起きたためである。
休刊になった論座の2008年10月号での芹沢の連載・犯罪季評ホラーハウス社会を読むにはこうある。

まるで時計の針が突然、巻き戻されたような、そんな感慨を抱かされる見解が相次いだ。「アキバ通り魔事件」をめぐってである。(中略)犯行の背後に社会的な問題を見出そうとするこうした志向は、昨今では言論人のあいだでもすっかり影を潜めていたものである。(p224)

秋葉原事件による報道でワーキングプアや派遣労働の問題が急激にクローズアップされた。
ただ、こういった報道は芹沢によればここ何年も失われていた報道のようだ。
それは犯罪被害者や被害者の家族に報道の視点がクローズアップされ、
それと同時に犯罪者への共感がなくなったためだという。


マスメディアの報道姿勢によってひとつの報道でも人々への見え方を変えることが出来る。
秋葉原事件でもひたすら犯罪被害者に視点を当てていればワーキングプアの問題は
「黙殺」することも出来たということだ。
と考えると、報道の流れが突然変わった理由そのものをもう少し考える必要があるのかもしれない。
この本は2006年に出されたものであるため、
秋葉原事件以前の報道姿勢・語られ方が詳しく書かれている。
年末になれば秋葉原事件も今年あった事件としてもう一度話題に上るだろうが、
そのときのマスメディアの語り口がどうなっているか注意しなければいけないなと感じた。


とこの本の書評というか秋葉原事件に関する感想みたいになってしまったけれど、
今読むとそういったことを想起せざるを得ない本だなぁと思う。
他にも、犯罪統計を丁寧に使って治安悪化のイメージに警鐘を鳴らしたり
治安悪化のイメージが強くなっている世の中での地域防犯の背景を分析したりと
とても良く出来た本である。
4章の刑務所のはちょっと流れとしてズレている印象を受けるが
最近はワイドショーでも取り上げられたりして社会としてはこちらのほうが問題なのかなと思う。


メディアの報道姿勢について勉強する時には不安や危険に対するイメージがどうなっているかも
併せて感じたり、勉強する必要があるなぁということをしみじみと思った。


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5 犯罪を正しく恐れるために
5 安全神話崩壊(実はウソ)の裏で、排除は進んでいないか
5 犯罪報道が歪んでいるだけではないのかもしれない。
4 体感治安の煽りを受けた「不審者狩り」が,歪んだ日本社会の捌け口になる前に。
4 データをしっかり把握して冷静に判断しよう