なぜ、英国ではインターネット広告がNo.1メディアになってしまったのか
完全に話題に乗り損ねたけれど、今後の(日本の)広告業界がどうなるのか、
しっかりと考えておかないとまずいと思い自分なりにまとめてみようと思います。
イギリスで起きたこと
最初はロイターで報じられたのが一発目だと思う。それによると、
2009年前半、英国のインターネット広告支出は4.6%増加した。マイナス17%という広告市場全体の成長率を上回り、テレビを超えて同国最大の広告媒体となった。
業界団体Internet Advertising Bureau(IAB)の半期に1度の調査報告書によると、2009年前半のネット広告支出は17億5000万ポンド。広告支出全体の23.5%を占め、初めてテレビを上回った。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0910/01/news014.html
ということで、インターネット広告が広告業界に逆風が吹く中プラス成長を続けたことで、
テレビ広告を抜いたわけだけれども、
NO.1になったのは実は他のメディアの大きなシェアの減少があったから。
ガーディアンの5月19日付記事では、「ゼニスオプティメディア」社(ZenithOptimedia)が、新聞、テレビ、ネットの3本立てて広告費を比較している。これによると、2007年分では新聞が39億ポンド、テレビ33億ポンド、ネットが23億ポンド。この後の数字を付け加えていなかったが、紙版(Internet ad spending will overtake television in 2009)の記事にはグラフが付いていた。
そこから数字を拾うと:
棒グラフ:「広告費」
(単位:百万ポンド)2007年 新聞 3,921(39億2100万ポンド)、テレビ 3,380、ネット 2,374
2008年 新聞 3,963、 テレビ 3,830、 ネット 2,982
2009年 新聞 4,011、 テレビ 3,431、 ネット 3,640
20010年 新聞 4,090、 テレビ 3,499、 ネット 4,366
(2007年は実績、他は予測)
http://ukmedia.exblog.jp/9024002/
ここで書いてある「新聞」というのは、どうやら「出版」(=新聞+雑誌)ぽい。
ただ、このグラフを見る限りイギリスではジャンルとして「出版」が
広告費としては一番出稿が多かったことがわかる。
実はロイターの中でもこういった分類がされている。
報告書によると、インターネットが全広告支出に占める割合は23.5%で、前年同期の18.7%から拡大した。テレビの占める割合は21.9%、出版は18.5%、ダイレクトメールは11.5%だった。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0910/01/news014.html
日本だろうが、アメリカだろうが、英国だろうが紙媒体への逆風が凄まじいため、
出版メディア自体が英国で最大のメディアではなく一気に三番目まで転落してしまったのだ。
だから、インターネット広告はテレビ広告を確かに抜いたけれども、
併せて出版という大くくりの最大メディアまで抜いてしまった。
それによって最大のメディアになったというのが真相っぽい。
その原因は??
じゃあ、英国のインターネット広告で何が伸びたのかといえば、
検索連動広告とオンラインクラシファイド広告の2つだという。
それがではどういう影響があるのかといえば、
今回のシェアの変動は、テレビ広告支出が16.1%、出版広告、屋外広告、電話帳広告が20%以上減少したことによる。出版物のクラシファイド広告への支出は37%減少した。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0910/01/news014.html
細かい数字を追っているのが英インターネット広告局で、2007年発表分によると、既に2006年、ネット広告は全国紙の広告費を上回っている。前者がシェア11.4%、20億ポンドだったのに対し、後者はシェア10・9%、19億ポンドだった。初めて全国紙広告費を抜いた年となった。2007年では、ネット広告が28億ポンド、シェア15・3%だったのに対し、全国紙が19・9億ポンド、10・5%。地方紙(27億ポンド)のシェア(15%)も抜いた。
http://ukmedia.exblog.jp/9024002/
日本の新聞は地理条件もあってかなり特殊で全国紙が圧倒的なシェアを持っているけれども、
イギリスなんかだと広告費ですら全国紙よりも地方紙の合計のほうが大きかったりするみたい。
じゃあ、一般的に地方紙の広告として機能するのは何かといえば、
その地方にあったクラシファイド広告ということになる。
そのクラシファイド広告がオンラインで伸びるとなると地方紙はかなりきつく、
自ずと「出版」の広告シェアは落ちていく。
またテレビに関して言えばこういう背景もあるとのこと。
さらに、BBCが大きすぎるというのも理由としてある。そもそも英国の放送行政は大抵「BBCってどうよ?」というのがアジェンダの中心に据えられている。そしてBBCは民業圧迫の声をよそにひたすら肥大化しており、品質もきわめて高い。というわけで、経済規模だけでなく、そもそも広告媒体としてのマスメディアの規模感も、それほど大きくないのである。
http://japan.cnet.com/blog/kurosaka/2009/10/01/entry_27034780/
日本みたいに民放が圧倒的に強いわけではなく、
国営放送のBBCがテレビでは力が強いため広告が集まりにくいというのもあるのかも。
日本と英国の広告費比率
今回出ていた分類にしたがって日本と英国の比較をしてみたいと思う。
日本の広告費については電通があれやこれやと
「プロモーションメディア」を足していったこともあり普段感じる比率と違う面があります。
また英国の広告費にも何が含まれているかは英語が弱い自分には?な部分があるのですが。
英 ネット:23.5%、テレビ:21.9%、出版18.5%、DM11.5%
日 ネット:10.4%、テレビ:28.5%、出版18.6%、DM6.6%
(日本はhttp://www.dentsu.co.jp/marketing/adex/adex2008/_media.htmlを参照。よって2008年度のもの)
ということで、日本と英国では広告に関する風情がだいぶ違います。
なんだかんだテレビの比率の高さは凄まじい。
出版とテレビが同じぐらいだなと感じる英国と、
テレビが比率としてぶっちぎっている日本とでは
テレビ広告をネット広告が抜いたよというニュースのインパクトもまた違うと思うのです。
まとめ
ということで、長々と書いてみたものまとめると
・英国は日本に比べテレビの広告費がずば抜けて多いわけではない
・ネットのオンラインクラシファイド広告が出版の広告費をかなり食ったのではないか
というのが個人的な結論でした。普通な結論でした。
なのでこのニュースを見ただけで、広告の視点から考えると
日本のテレビ広告終わったなとか電通終わったなとか言えるわけではないと思います。
また、暢気にイギリスではこういう状況なのでテレビの広告ではなくて、
ネットの広告に出稿しないとヤバイですよと煽るのもちょっと間違っていると思う。
すべてのメディアがデジタル化する時代では、何がテレビ広告で何がネット広告かはあまり意味がない。
デジタル化は、広告を「フォーマットニュートラル」にしていく、特定の広告フォーマットを前提としないコミュニケーションコンテンツを開発が必要だ。そうした発想のできるマーケター、広告マンの育成が必須である。
http://g-yokai.com/2009/10/no1.php
ADKインタラクティブの横山さんとかはこういった感じでまとめている。
比率をどうするとかは特に問題ではなくてどういったコミュニケーションをしていくかということが
大事なんだという至極まっとうな結論になりそうです。
ただ、ネットにせよ、テレビにせよ、新聞にせよ、どう生き残っていくよ?というのはまた別な話。
ネットは広告費がどんどん伸びようが、分け合う人数が膨大なので基本的には幸せになれず、
ものすごい勢いで広告費が減っていく既存のメディアはビジネスモデルの転換を求められている。
って、パラダイムシフトが起こって誰も幸せにならないんだけれどもこれでいいのかな?