古川日出男「聖家族」

発売日に購入して以来、余りの本の厚さにビビリずっと積読されていました。
何しろ、700ページを超える上に2段組。

http://www.shueisha.co.jp/furukawa/index.html
ただ、昨年の話題作であることは間違いないため早く読まないと…と思っていました。
結果的にテストが始まる前の正月休みの時期を使って読もうと正月から読み進め、
読み終えたのが今日という残念な結果になりました。
読み始めてすぐに分かったのは圧倒的に持ち運びに不便だという事実。


ストーリーは全く要約することが出来ない…。
帯に書かれているのは

異能の者を輩出しつづける青森の名家・狗塚家。平成X年現在、孫たちは三人。半ば人ならざる存在の長男・牛一郎。死刑囚となった次男・羊二郎。胎児と交信する妹・カナリア
「異能の者」とは何か?「天狗」とは?「家族」とは?「故郷」とは?「日本」とは?
排除され流亡せざるをえなかった者たちが、本州の果て・東北の地で七百年にわたり繋いで来た「血」と「記憶」。生の呪縛と未来という祝福を描く、異形の超大作。

うーん、これは一部だよなー。
家族についての小説だとも言えるし、系譜学的小説とも言えると思う。


そして、全て読み終えて最初に思ったのは、「何も分からない」。


先月読んでいた舞城王太郎の「ディスコ探偵水曜日」もすごい長かったけど、
長さの質が全然違う。
ディスコ探偵水曜日」は設定を無理矢理成立させるために過剰な説明が必要な印象だったが、
「聖家族」はどう考えてもストーリーを出し切ってはいない。
背景にあるものすごく膨大なストーリーの一部を切り取って出しただけという印象。
その切り取り方が絶妙で、一言一言全てが繋がっているけれど、
全体で見たときに疑問がかなりの数残っているように感じる。


読み始めてすぐに圧倒されたのは、一文一文の強さ。
直前に文化系トークラジオLifeのspinoff企画「古川日出男・東京REMIXED」を聞いた影響で
http://www.tbsradio.jp/life/2008/11/spinoffremixed.html
古川日出男が読む「ハル、ハル、ハル」のイメージが強く頭に焼き付いていた。
それが原因で一文一文を古川日出男が読んでいる音で文字を追い続けた。
特に、羊一郎が闘っている部分やラーメンを食べる前の会話なんかはそういった印象。
「声に出して読みたい日本語」の強さだと思っていた。
でも、後半に進むにあたって一文一文の強さはどうやらそれだけではないなと思った。
何なのだろうな、この文章の強さは。
これこそは古川日出男の魅力だと思う。


そして、このストーリーに書かれたことがなかった資料はどこに行ってしまったのだろうと考える。
説明がない部分についても、きっと古川日出男の頭の中には膨大なテキストが残っているのだろう。
そのテキストを書くためには当然膨大なフィールドワークや文献の読み込みが必要だったはず。
その部分は今後目にすることは出来るのだろうかと思う。
このことから全力のアウトプットとはこういうことなのかとか、
全力のアウトプットに必要な準備とはいったいどういうことなのか思いを馳せる。


何も分からないが、そんなことを遠くに感じるほどの圧倒的な存在感。
これだけの作品を読むことが出来て本当に幸せに思う。
ただ、amazonでは購入できないようですね。
品切れ中なのか、あまり部数が出なかったのか…。
この作品に新しくアクセス出来なくなるのは明らかにプラスにはならない。
集英社の方、amazonとうまく連携を取って欲しいなと思います。