スティーブン・スピルバーグ「リンカーン」

日本で憲法改正の議論が盛り上がっている。自民党が最初に改正を求めている96条、所属議員の3分の2以上の賛同による発議、まさに憲法改正のためにその3分の2をめぐるやり取りを描いた映画が「リンカーン」だ。アメリカと日本とで3分の2の元となる議員の条件は異なるのだが、それでもこの3分の2という数字がいかに高い数字であるかが十分に伝わってくる作品になっている。

南北戦争の最中、黒人の奴隷制度廃止のために憲法を改正するために、出席議員の3分の2の賛成を巡る攻防を描いている。結果は既に知っての通り改正される。だが、その過程はとても泥臭い。なぜなら、自分たちの政党だけで3分の2の議席を持っているわけではないので、足りない分の賛同を他の政党の議員から得る必要がある。このやり取りを見てわかるのは、賛成・反対それぞれにおいてその理由や度合は本当にいろいろなものがあるということだ。

反対派の中には、もちろん黒人に法の下の平等を与えるなんて有り得ないという人もいるがそういった人ばかりではない。例えば、そんな中途半端な改正ではダメだという、方向性は一致しているのにも関わらずその改正の内容について同意できない人もいれば、賛成票を投じることで白人からの反発にあうことを恐れている人、頭ではわかっていても過去にあったトラブルによって賛成する気にはなれない人など。賛成・反対というと二元論のように見えるが、そんな簡単に括ることは出来ないのだ。

憲法を改正するということは、こういった困難な状況でも少なくとも3分の2が合意出来る内容か、合意に導けるリーダーがいなければダメなのではないだろうか。「リンカーン」ではその二つが両方とも噛み合った状況だったのだろう。アカデミー賞主演男優賞を獲得したダニエル・デイ・ルイスの説得力ある演技がこの映画を支えている。歴史的な改正の瞬間を疑似体験できる映画だ。